1. 今から数十年前のこと、和暦は、まだ昭和五十〇年代。幼かったぼくは、気が付くと信田団地ていうとこにいた。片田舎の山の上に立ち並んだたくさんの団地が集まって一つの町になった場所。その集会所ていう町の広場の端っこに立っていた。カキーン、カキーン、町内ソフトボールチームが金属バットをふって練習している音が聞こえてくる。使い込まれた革のグローブを付けてどろんこユニフォームを着てる年上の子たちがなんだかカッコよくて、ぼくは、時々、緑の生い茂った大きな木が立ち並ぶ間からみんなの練習風景を眺めている。へへへ。
「ねえどこの子ね、ソフトすきとやあ?」と誰かが声をかけてくる。びっくりしてぼくは走って逃げる。少し離れたところからふりかえってみると、監督みたいなひと、町内のどこかのうちのおじさんがそこに立っていた。野球は好きだ、けど。だって、おじいちゃんが毎日お酒を飲みながら、テレビのナイター中継を見てるから。ぼくもおじいちゃんと一緒に巨人をおうえんしているんだ。体が細いけどとても上手い篠塚が好き。でも、この、ソフトボールていうのはなんだかよくわからない。球がとても大きそうに見えるし、ぴっちゃーがなげるのも下から腕をぐるぐる回してなげているんだから。きっとあれは野球とは違う。別の野球なんだろうなぁ…と思いながらみてた。
「あ!」兄ちゃんと遊ぶ約束してた!ことを急に思い出してぼくは叫んだ。遅れたらまたおいてけぼりにされる…と思いながら自分の家がある1-2棟へむかってはしっていった。集会所の出入り口の階段をおりる。そういえば、この集会所では、夏になると盆踊り花火大会があって、金魚すくいやヨーヨーすくい、いつも外れるくじびきやさん、たこやきやさんなどたくさんのお店が来ていて、そして町のおじさんおばさんが好きな踊りや歌をひろばの中央の高いステージの上で披露したりして、ぼくはとても楽しいんだ。集会所の出入り口のこの階段の上で、町の子たちがいっぱい行ったり来たりしてまるで、街でお正月にある初売りの様に、人同士がぎゅうぎゅう詰めの大賑わいになる。知ってる子の顔たちが行ったり来たりする。とても面白い。でも、今日はぼくひとり。さっさと十五段くらいの階段をかけおりて、町の広い道路に向かって走って行く。
おおっと。またタクシーが止まってる。今は二台だ。このタクシー。ぼくはいつもクスッとなる。ぼくら兄弟は団地の二階からトランシーバーをつかっていたずらをしてつなげようといつも頑張ってる。でもなかなか繋がらない。いつか、タクシーのおじさんにつないで「~どうぞー」といっていたずらしてやるんだ。タクシーの横を過ぎて横断歩道に向かった正面に、町のスーパー サトウ屋さんがある。いつもここでお菓子や野菜やお肉、魚などの食べ物を買っている。ここにはなんでもある。ここのパーマー髪のおばちゃんはちょっと怖い、けれど、時々は優しい。両隣に、お米とお酒とタバコ屋さん、お肉とお惣菜屋さんの二件があって、お米屋さんには、おかあさんがいつも電話からお米の配達のおねがいをしている。お店のおじさんが重いお米を担いで持ってきてくれる。力持ちのおじさんだ。きっと、お父さんくらいにつよいかもしれない。いやそれでもお父さんの方が怖いだろう。このお店のこどもの男の子は、ぼくと年も近くてときどき遊んでいる。でもちょっとおとなしい子だから。やっぱりいつもは遊ばない。二人でいるとしーんとするから。横のお肉屋さんのおじちゃんおばちゃんはとてもやさしくてぼくは大好きだ。お店のポテトサラダはあまくてキュウリがパリパリでとても美味しい。ときどき、「余ったから」とニコニコしながらわざわざ家まで持ってきてくれたりしていた。うちは貧乏だったから「やさしいなあ」といつもおもっていた。ぼくは、おばあちゃん、おかあさんに手を引かれていつもここに買い物へ行っていた。
ふっと意識が戻ってくる。今思えば、あの頃、ぼくらはこの三件のお店で生活のほとんどの物を買って暮らしていたんだ。あとタバコ屋の横には床屋があって、そのおっさんにいつも変な頭に切られていた。むちゃくちゃ嫌だったけどそこしか床屋がなかったから行くしかなかった。ともだちもそこで切られていて変な頭になっていた。色々と今はもう考えられないことだけど。
でも、いまは買い物するひまはない。お小遣いもない。信号をはしって渡り、お肉屋さんの先の道を過ぎてから一直線の道の向こうの1-2棟へぼくは走って行った。「おい、なんしよったとや」。団地の入り口のところで兄ちゃんがまだ待っていた。「よかったぁ。。もうおらんかと思った」。そして、ぼくらはいそいで1-5棟のあっくんちに走って行った。それがぼくらのいつもの行動で、それがぼくらがいつも「遊びいく」ってことだったから。
今日はここまで。幼い頃の記憶、思い出を日記の様に思い出しながらゆっくりと書いてみようかなと思います。
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