2.団地の階段を駆け上がっていく。二人並んでぎゅうぎゅうなりながら。いつの間にか競うように上がっていくもので。ちなみにあっくん家(ち)は四階だけど四階くらいなんてことはない。「ヨシッ着いた!オイが勝ちばい!」と兄ちゃんが叫んだ。「ちくしょ・・いつも負けるけんねぇ。なんでかなぁ。くやしかぁ。。」。
細くて背も小さなぼくはいつも豆ん子。いつも行く保育園の年長さんの中でもいっちばん背が小さい。ぼくはちょっと女の子みたいな髪の毛の長さだから、先生はやさしくしてくれるけど…とくにみどり先生はやさしくて、ぼくが走ってずっこけたり、竹馬に乗って転ぶと、「とっちん、だいじょうぶ?」と言って抱き起してくれる。いい先生だ。とにかく、ぼくは運動は苦手で、足が遅くて、どこかどんくさいから、あっくんとにいちゃん達の友達仲間と遊ぶ時はいつもの「豆ん子」にされるんだ。
豆ん子は、ルールは無視の無敵の子。鬼ごっこの時、逃げ回って鬼にタッチされても、ぼくは鬼にはならない。捕まえ鬼で鬼にたっちされても、ぼくは陣地には捕まんない。そんなだから、鬼の子は、ぼくをみつけるとがっかりしてべつの子を探しに行く。ぼくが豆ん子だってこと忘れて追いかけてくれる子も時々いたけど、だいたい途中で気が付いて、他の子を探しに行く。向こうへ走り去っていく鬼の子の後ろ姿を見ながら、ぼくは、もう鬼の子からは追いかけられないから少し安心する。でも、少しかなしくて、なんだか、上手く言葉にできないさみしい気持ちになるんだ、いつも。だけど、豆ん子じゃないとぼくはずっと鬼のままになっちゃうし、ずっと陣地に捕まったままだから、仕方なくいつも豆ん子にされるのを受け入れている。
ドアの前、あっくんち、いつも鍵は開いているからいきなりドアノブを回して、狭い団地の玄関にうんどう靴をほっぽり出し、奥のあっくんの部屋へ走って行った。「あっくん!いまなんしよる?集会所で遊ぶ?そいとも雨降り公園にいく?それともシンボル公園?」。二人バラバラにそう言うと、びっくりしたあっくんがアイスを食べながら、「今日は集会所いくぞ!」と言った。あっくんはいつもアイスを食べている。一日三個くらいたべることもある。だからなのか、あっくんはおっきくてふっとい。ぼくたち兄弟二人あわせたくらいがあっくんだ。アイスをいっぱい食べられるあっくんは、ぼくよりもお小遣いいっぱいもってるんだなきっと。
ちょっと待て?。集会所では今、ソフトボールチームのれんしゅうやってる。だから遊べない。ぼくは、さっきまで集会所でソフトボールの練習をみていたことをふたりに話して別のとこへ行こうと言った。するとあっくんが「そしたら、ジャンプ探しいこうで!」。と言った。
ジャンプ探し!。なんていう懐かしい響き。ジャンプはもちろん週刊少年ジャンプの事で当時、大人気の漫画雑誌だった。ドラゴンボール、聖闘士星矢、キン肉マン、北斗の拳、ついでにとんちんかん、さきがけ男塾、キャプテン翼!、ハイスクール奇面組、メカドック、銀河、ウイングマン、気まぐれオレンジロード、こち亀etc…。今思い出しても錚々たるラインナップでびっくりするが、まだ幼かったぼくらは、当時、特にサッカーのキャプテン翼が大好きで、小さい頃の悟空が大活躍するドラゴンボール、正義悪魔を越えた友情に涙するキン肉マン、ギャグが面白いとんちんかん、ハイスクール奇面組を楽しみにいつも読んでいた。なんていい時代だったのだろう!。それはともかく。
ジャンプ探し!。信田団地の入り口には、高さがぼくよりちょっと大きいくらい、幅はぼくら三人一緒にならべるくらい、奥行きがぼくが寝転がれるくらいのゴミ入れ倉庫があって、毎週木曜日になると廃品回収のゴミでいっぱいなる。閉まらないほどになるときもある。そのごみの中から、お小遣いでジャンプを買えないさみしい僕らは、捨てられた段ボールや雑誌、新聞、積みあがった本なんかの中から、週刊少年ジャンプを探し回ってゲットするのだ。31号、32号などと連続する号数を見つけると嬉しいもので、みつけると続きが読める嬉しさでぼくらは飛び上がった。ぼくらのジャンプ探しは、そんなお宝を見つけにこの町の団地中を探し回る旅の事だった。一つの町になった団地は広い。とても広いけれど、いつもコレをやっているから、どこにそのお宝があるのか、どこで見つかりやすいかが大体わかっていた。なんでも慣れるとわかるものだね。こんなゴミ漁りのような事でも。
「よし、今日こそは、聖闘士星矢のシュンがクロス着た全身の姿をカーボン紙でなぞって絵に描くんだ!」ぼくはそう心に決めてお宝ジャンプ探しへの旅へ出かけて行った。
今日はここまでです。また次回に。